報告書:手話話者と非手話話者との多言語コミュニケーション/クリスティーン・サン・キムとのウェビナー


Webinar Participants

タイトル】Multilingual Communication with Signers and Non-Signers
手話話者と非手話話者との多言語コミュニケーション
開催日時】2023年3月27日(月曜日)日本時間 18:00-20:00
開催形式】Zoom ウェビナー(事前登録制)

【講演者】
  • クリスティーン・サン・キム
  • 伊藤穰一 千葉工業大学変革センター長
【同時通訳者】
  • アメリカ手話通訳:Beth Staehle
  • 日本手話通訳:仁木美登里、山田泰伸
  • 日英音声同時通訳:Miho Tatsumi, Fumi Hirai

主催】千葉工業大学変革センター
運営協力】HENKAKU ディスコード・コミュニティ、ニューロダイバーシティ・サロン


【ウェビナー概要】

アクセシビリティ、クリエイティビティ、ニューロダイバーシティ(脳の多様性)などについて、伊藤穰一変革センター長とクリスティーン・サン・キム氏が対談を行いました。キム氏は手話で自己表現をするサウンド・アーティストです。キム氏によるプレゼンテーションと伊藤センター長とのディスカッションを通じて、手話話者の視点や文化、非手話話者とのコミュニケーションにおける課題、社会構造に起因する格差への考察、社会における認知的多様性を支援する意義、異なるニーズに対応したテクノロジーの活用事例など様々なトピックを取り上げ、多角的かつ深遠な議論が展開されました。

また、本ウェビナーのテーマの一つである「アクセシビリティ」を拡張する試みとして、既存のテクノロジーとツールを活用して、アメリカ手話通訳、日本手話通訳、日英音声同時通訳を全てライブで行うという実験的なセッションが行われました。これにより多様な参加者がウェビナーに参加し、チャット機能を利用した参加者間での理解や知識の共有、講演者との議論の展開が促され、コミュニケーションが活性化されました。

ウェビナーのパネリストは日本・イギリス・アメリカから登壇。一般参加者は日本以外にも韓国、香港、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストラリアからアクセスがあり、平日の夕方の開催にも関わらず、時差や国境を超えた熱気あふれる講演となりました。参加者からも高い評価や感想が寄せられました。

【背景】

本ウェビナーは、伊藤センター長が創設したHENKAKUディスコード・コミュニティ内の「ニューロダイバーシティ」チャンネルでのチャットから着想を得ています。

「ニューロダイバーシティ」チャンネルは、発達障害の当事者や家族、教育関係者をはじめ、ニューロダイバーシティ(脳の多様性)に関心の高いメンバーが参加しているコミュニティです。このコミュニティでは、障害者と社会の関わり方や成長後のキャリアなどの社会課題が関心を集めており、コミュニティのビジョンを体現するロールモデルのひとりとして、米国人サウンド・アーティストのキム氏が取り上げられていました。

キム氏は、「聾」という、いわゆる「障害」とされる特性を持ちながら、サウンド・アーティストとして世界的に活躍しています。伊藤センター長がキム氏と友人であることから、センター長を通じて彼女との対談を打診し、更に千葉工業大学の協力を得て、本ウェビナー企画の実現に至りました。

本ウェビナーの事前告知や集客には、ニューロダイバーシティ・サロン運営チームやHENKAKU ディスコード・コミュニティのメンバーが自主的に参加・協力しています。


【実施内容】

▼ 18:00-18:15 オープニング
伊藤センター長によるウェビナーの概要説明。

▼ 18:15-18:45 キム氏によるプレゼンテーション
キム氏がスライドを使用して自身の作品について詳しく説明しました。音が聴こえない人にとって音とは何か、どのように感じるか、どのように表現するかなどについて語りました。キム氏の作品は、音という表現手段が持つ多様性や可能性、現代社会において聴覚障害者が持つ視点、コミュニケーションにおける関係性の認識、そして手話という言語によって人間の感覚や感情がどのように変換されるかなど、深いテーマを扱っています。キム氏の作品は、個人的な経験や感情に基づいたアートであり、社会的問題や人々が持つ権利についての考察であり、アイデンティティに関する問いかけでもあります。

▼ 18:45-19:30 ディスカッションおよび質疑応答
伊藤センター長とキム氏が、手話のニュアンスや政治性、聴覚障害者コミュニティの現状やテクノロジーとの関係などについてディスカッションをしました。
トピックはアートやNFT、コロナ禍下でのコミュニケーションの難しさ、自閉症、子育てや教育についてなど多岐に渡りました。人工内耳をめぐる問題や、米国における聴覚障害者コミュニティの縮小についても触れ、手話とテクノロジーの進化により聴覚障害者がより多くの分野で活躍し、より多様で包括的な社会が実現することを期待すると述べています。
異なる障害者間の協力の可能性と、誰もが利用しやすい教育を実現するためのテクノロジーの役割についても議論し、多様性を受け入れ、異なる文化やコミュニティとの交流を推進し、異なる慣習やシステム、感性について学ぶことが重要であるという認識を共有しました。
参加者からも様々な質問が寄せられ、キム氏はそれぞれの質問に対して丁寧かつ興味深く回答しました。

▼ 19:50-20:00 クロージング
伊藤センター長は、障害の有無に関わらずインクルーシブなコミュニティを作るための意図と構造の重要性について語り、日本と欧米の将来的なコラボレーションに期待を寄せています。また、本ウェビナーに携わった5人の通訳者の功績を称え、今後のアクセシビリティの向上にむけ、同様のウェビナーの継続開催を提案し、ウェビナーは終了しました。


【ウェビナー実施結果】

事前登録者数:129
合計視聴者数:109 (ユニーク視聴者数:82, 同時視聴者数:最大63)

  • 「平日、月曜日」「夕方、帰宅時間帯」「2時間」という、一般的に参加率が最も低いとされる条件下での開催にも関わらず、非常に高い参加率となりました。
  • 日本国内をはじめ、韓国、香港、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストラリアからも参加がありました。
【主なフィードバック】
  • 手話話者と非手話話者とのコミュニケーションについて興味深く聞くことができた。
  • キム氏の作品や考え方が示唆に富んでおり、大変良い刺激を受けた。
  • 手話話者が日常的に感じていながら、なかなか周囲には理解されない課題や問題点を、オープンに取り上げてもらえたことに感謝する。
  • 伊藤センター長の質問やコメントが的確で分かりやすく、議論に深みを与えていた。
  • 同時通訳や手話通訳の質が高く、多言語でのウェビナーがスムーズに進んだ。
  • アクセシビリティやニューロダイバーシティについて、今後も継続的に学びたいと思った。

【まとめ】

本ウェビナーでは、多言語コミュニケーションの重要性や社会課題について、重要な示唆を与えることができたと考えられます。変革センターでは、今後も同様ウェビナー等を通じて多言語コミュニケーションに関する社会的な認識や理解を高めることが必要であると考えています。また、本ウェビナーで得られた成果を学術的な研究や教育にも活用していくことが望まれます。